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[論評]【MetroExodas】主はモーセに言われた、「このゲームの主人公はアルチョムではない」

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本稿には盛大なネタバレを含んでいますので、その覚悟がある人のみ読みなさい。

 

 

完走

youtu.be

無事、ゆっくり実況復帰第一作目【Metro:Exodus】が終わりました。ほぼ毎日ペースで更新できた本動画は、自分の中であらゆるものと決別して、自分が真にやりたいことを改めて見いだせた作品になったと思っています。
それもこれも、自分の中で動画編集の最適化だったり、色々と時間の使い方、私欲のコントロールができるようになった。というようなことがありましたが、やはり一番は

本作の完成度の高さ

これがモチベーションに繋がったとも言えるでしょう。それだけこのゲームは読み解く価値があった。まさか、話題作りのため新作のゲームを、という下心を差っ引いて、ここまでいいゲームだったとは思いもしなかったでしょうね。動画を上げる前の私は。

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いったいこのゲームの主人公は誰だったのか

 Metro:Exodas。発売日は2019年2月15日。もう少しで発売から一か月以上経とうとする本作は、あまりにも早すぎる世界の流れに、もはや新作とも言える作品ではないでしょう。
既に本作のレビューは様々な方が発売直後にあげていらっしゃる。そのどれもが素晴らしいレビューで、本作のゲーム性を素晴らしく伝えていらっしゃる。

だからこそ本稿では、本作の一番大事な部分である

「誰の物語だったのか?」

という部分を読み解いていく。

なぜ彼らはエクソダスへと至ったか

 本作、 Metro:Exodasは端的に言うとモスクワメトロから飛び立つ話だ。プレイヤーであるアルチョムは戦いを終え、外に安住の地があると信じ、ノイズまみれの無線機をいじっているところから始まる。 

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英雄としての名声、美しき妻、安定した生活。すべてを手に入れてなお、彼は強情に外の世界を求め、周りの住民から冷ややかに見られている。

そして傷つき帰る彼を、人々は冷ややかな目で見る。医者ですらアルチョムを戒める。そして次に出てくるのが、妻アンナの父、ミラー大佐だ。

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彼は徹底的に外の世界を否定する。存在だけでなく、希望や望みですらも完膚なきまでに潰していく。

しかし、作中。アルチョムとアンナが機関車を発見したことにより状況は変わる。メトロの一大勢力となったハンザが、外の世界を隠ぺいしたことが明らかになり、ミラー大佐もその隠ぺいの事実を知っていたのだった。

そうしてようやく、モスクワからのエクソダスが始まる。

エクソダス―という言葉は何を意味しているのか。

エクソダスとは出エジプト記のことである。
旧約聖書二番目の書であり、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれている。
なぜメトロシリーズの最新作、集大成ともいえるこの作品にエクソダスという名前を付けたのか。
モスクワから脱出し安寧の地を求めるストーリーならば、他にいくらでもふさわしいタイトルがある。

だが、本作は「エクソダス」というタイトルでなければいけなかったのだ。

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誰が、モーセだったのか

出エジプト記の主人公として描かれるのは、モーセである。

出エジプト記」において、モーセは神の民であるヘブライ人を導き、エジプトから脱出し、葦の海を割って、シナイ山十戒を受ける。
では、ヴォルガ川の封鎖された橋を渡り、ヤマンタウ山へ向かうよう導いたのは誰か?

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 モーセヘブライ人の物語は出エジプト記だけでは終わらない。

物語は民数記と呼ばれる第四の書へ続き、モーセヘブライ人が荒野を渡り、他の民族と争う様子が描かれる。
では、荒野を、そして渓谷を縦断し、他の民族・現地の民族と争うようになったのは
だれの指示か?

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そして、第五の書である申命記にて、約束の地へ目前と迫ったモーセヘブライ人が描かれる。
モーセは約束の地へ入ることを許されず、山の上へと昇り、約束の地を眼前に見ながら、後継者を指名してこの世を去る。

こうしてモーセの物語は幕を閉じる。

民を導き、ただ約束の地を夢見たモーセはいったい誰だったのか。

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私は、ミラー大佐こそが本作におけるモーセだと考える。

プレイヤーとしての視点は、確かにシリーズの主人公として据えられているアルチョムかもしれない。
だが、本作を出エジプト記をテーマに描いた指導者と民衆が安住の地を求める旅の物語としてみれば、間違いなく【Metro:Exodas】の主人公はミラー大佐である。

 ミラー大佐は、最後のステージである亡霊の街へと入る前、オーロラ号の中で職業軍人である彼らしくない言葉を言う。

「ほらな?アルチョムと私の分だ!やはり運命なんだ!」

軍人として、偽の政府に踊らされ、信じるべきものもなくなり、守るべきだった人が住む国(メトロ)からも追放された男が最後に縋ったもの
それは偶然的な運命。こじつけである。
また、亡霊の街のラスト。大佐が車内で語りかけるセリフも特徴的である。

「お前を見つけたんだ ようやく…これは導きだ…」

ミラー大佐は通信もつながらず、屋内にいるのか屋外にいるのか、またアンナのために薬を見つけたかどうかも分からないアルチョムを見つける。
偶然としか言いようのないこの現象に、ミラー大佐は導きという奇跡を見出す
ここにおいて、ミラー大佐は神の声を聞くモーセと同じ存在となったのだ。

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バイカル湖を見下ろし、夢の中でミラー大佐はアルチョムへ告げる。
私の出番は終わった。今度はお前がオーダーを指揮する番だ。
大佐は安住の地をこの目で見ることはかなわず、夢の中で主役の変更を告げ、山の上で眠った。

モーセ五書の最後となる申命記では、前述のとおりモーセは後継者を指名し、120歳という生涯を閉じる。
後継者として指名された従者の子ヨシュアは、その後『ヨシュア記』で主人公となり、約束の地を征服していく。

本作のこのエンディングこそ、申命記からヨシュア記へと主人公が変わる流れとほぼリンクしているのである。

つまり次世代の物語の主人公として、普通の青年であるアルチョムが民衆を指揮する存在『オーダーの指揮官』として選ばれるシーンは存在してしかるべきなのだ。

親から子へ

本作では、終盤において子どもという概念が強く出てくるのも特徴的だ。

ナスティアという救われた子ども。キリルという取り残された子ども。カティアとステパン、アルチョムとアンナの間にいつか来るであろう新たな命。そしてミラー大佐がアルチョムに向けた息子、という言葉。

全般的に本作は家族や次世代といったメッセージが強く打ち出されており、これについてはまた一家言あるのだが今回は割愛させていただく。

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ただ言えるのは、今作は救いの物語である。

Metro2033では、アルチョムとミラー大佐はダークワンの巣へミサイルを撃ち込むという罪を犯した。
Metro:Last Lightではアルチョムの贖罪と罪に対する許しが与えられ、ミラーには両足を失うという罰が与えられた。

そして今作では、ミラーが犯し続けてきた殺生・虚偽・疑心といった罰に対して試練とも言える仕打ちが与えられている。

 ただ死ぬということではなく。何のために生かされ、何のために死ぬのか。ミラーは最後の最後で理解した。
そして、自分の罪を認めつつも戒め、伝道者としてオーダーを作った教義を未来へ残したのだ。

本作で神が救済を与えたのは紛れもなくミラーである。

実は、大衆を導き神の声を聞いたモーセも罪を犯しているのである。
かつてモーセは神の声を聞くずっと前に、ヘブライ人を助けるために、はからずもエジプト人を殺害したのだ。

だが、神は彼を予言者として見出した。そして試練を乗り越え、彼は民を導いた。

そしてモーセの名は現代まで語り継がれている。

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きっとオーダーはモスクワへ戻り、人々を引き連れてこの約束の地へと戻ってくるだろう。

そして人々は目で見て、後世まで語り継ぐだろう。

この旅の終点と今は亡き導き手の名を。